回想録

世界から孤立していた私の話10〜勘違いしてしまった母との面会

前回からの続きになります)

母が入院している間に行われた、
娘家族と母との面会の時は、
孫2人の子守り役として、
私は自分から申し出る形で、
面会に同行し。

兄と母との面会の時は、
兄に母との面会を勧めた話しの流れ上、
自分も兄と一緒に母に面会するつもりが、
病院の規則により、
私は母に面会することが出来ず、
母との面会時に、
私と話がしたいと言っていた、
兄の要望に応えるために、
兄の面会に同行することになった私は。

母と会話することは叶わなかったけれど、
病院が指定した面会室は、
建物の1階入口の自動扉横に造られた、
四方がガラス張りの部屋だったため、
同行した私が座っていた、
建物入口前のベンチからでも、
中が良く見える構造となっており、
私は娘家族や兄が母と面会をする度に、
母の様子を伺い知ることが出来ていました。

また、母がいる面会室の中側からも、
外の様子を見ることが出来たようで。

娘家族が母と面会を行った際には、
高校生以上でないと面会室に入れない、
と言われたため、
娘夫婦だけで面会室に入り、
一緒に連れてきていた孫2人は、
私と一緒に、
外にあるベンチに座りながら、
母に対してガラス越しに元気な姿を見せて、
母も笑顔で、
外にいる孫たちに手を振っていました。

兄が母に面会をした時も、
私は外のベンチに座っていたため、
兄に対して嬉しそうに笑っている母の顔を、
ガラス越しに見ることが出来た私は、
兄が病院側に、
私も一緒に面会する旨を伝えてくれていなくて、
私が兄と一緒に、
母と面会することは叶わなかったため、
何のために仕事を調整して、
平日休みを1日とったのか、
分からなくなってしまっていたけれど、

「母があんなに喜んでくれるなら、いいか」

と思い、
自分を納得させていたのでした。

母との面会が終わった後、なかなか母の入院費用を請求しない私に、兄はお金の入った封筒を渡してきたため、私は「では、このお金から折半費を引かせていただきます」と言って、その封筒を預かりました。

だから。

そんな母の、
面会を喜ぶ姿を見続けていた、私は。

自分の母との面会も、
当然、母に喜んでもらえるだろうと、
勘違いしてしまっていました。

そう。

勘違いだったのです。

兄と一緒に、
母に面会することが叶わなかった私は、
改めて別な日に、
母と面会することにしたのですが。

3度目に面会室を訪れてようやく、
母と会話が出来ると思い、
看護師の方2名に両脇を支えられて、
ヨロヨロとしながらも、
何とか自分の足で歩いて、
面会室に入ってきた母に、
喜んで声をかけようとした私よりも早く、
私の姿を見た母の第一声が、
私の耳に飛び込んできました。

「何だ、お前だけか」

不服そうな母の、
その言葉を聞いた私は、
娘家族や兄に会った時との態度の違いに、
冷や水を浴びせられたような気持ちになり、
自分だけが、
母親に会えると喜んでいたことが滑稽で、
そして、そんな自分を、
母を支えて一緒に面会室に入ってきた、
母の担当看護師に見られたことがとても惨めで、
私は母に会えた喜びの言葉を紡ごうとしていた、
自分の口を閉じると、
淡々とした口調で話し出しました。

「そうだよ、私だけだよ。
お母さんに確認したいことがあって来たんだけど…」

そう言って私は、
今は私が母の入院費用を払っているけれど、
母の入院費用を母の銀行口座から支払いたいこと、
母の家の管理を行なっていることを、
お見舞いメールで報告しているが届いているか等、
まるで最初から、
そのつもりであったかのように、
事務的なことのみを口にしました。

母は私の言葉に、

「誰が入院費用を払ってくれているんだろうと思っていたのよ」

と言い、
必要なお金は母の口座から払っていい、
と答えました。

けれど、私のお見舞いメールについては、

「(私の娘の名前)からきたのは見たけど、
お前からのは見たことないわ」

と言い、

「届いたメールは全部渡してるんですが」

と、母の側に立っていた、
母の担当看護師を慌てさせました。

後で確認してくれた母の担当看護師の話によると、やはり私からのお見舞いメールは渡していたと言われました。(再度、印刷して母に渡してくれたそうです)
母に私がそのことを伝え、送った内容を伝えると「えぇ、あれか」と言われたため、私のお見舞いメールは、母の記憶に残っていなかっただけのようでした。

母の様子を確認するついでに、
話そうと思っていた内容を話し終わった私は、
本当は一番最初に伝えようと思っていた、

「お母さん、
自分の足で歩けるようになったみたいだけど、
具合はどう?」

という言葉を、
最後まで発することが出来ないまま、
逃げるように面会室を出て行ったのでした…

世界から孤立していた私の話11〜1人で行なった母の退院の準備に続きます。