回想録

世界から孤立していた私の話14〜孫はかすがい

前回からの続きになります)

誠心誠意尽くした母から受けた酷い扱いが、
どうしても心の中で消化出来なかった私は、
退院後の母の様子が気になりながらも、
母の家を訪ねることを、
少しずつ、
辞めていっていましたが、
娘から、
年末に1泊だけになるけど帰省したい、
との連絡が入ってきたことで、
そうもいかなくなりました。

私の住んでいるアパートは1LDKで、
孫を2人連れて帰ってくる娘を、
泊めるスペースは無かったため、
帰省する際は必然的に、
一軒家である、
母の家に泊まることになるからです。

そして、高齢で、
2ヶ月前まで入院していた母が、
4歳と2歳の孫2人の遊び相手をするには、
少し無理があることと、
娘と孫達は新幹線で帰ってくる予定であり、
駅まで迎えに行く人間が必要となることから、
娘が帰省してくるならば、
私が母の家に行くことは必須となるのでした。

母の退院以降、
母の家を訪ねる頻度を減らしたこと以外、
私が母に対する態度を変えることは、
無かったため、
私が母に対して距離を取っていることに、
気付いていなかった母は、
例年と同じように、
娘達の帰省の日を私に尋ねてきて、
私は娘に、
母との面会時のことを伝えていなかったため。

私が母に対して距離を取っていることを、
知らなかった娘も、
例年と同じように、
母には帰省の日を連絡しておらず、
(ここらへん、私の娘はルーズなのです)
私が母に娘達の帰省日と、
おおよその帰省時間を連絡する役目を請け負い、
おのずと、私の母に対する蟠りは、
無かったことのように、
取り扱うしかありませんでした。

それでも、ただ1点、

母の家には泊まらない

と心に決めていた私は、
娘達が母の家に宿泊する時に、
私は宿泊しないと娘に告げたところ、
私がいないと、
1人で孫達2人のお風呂やご飯の面倒をみるのは、
大変だから、
(高齢の母に幼児2人のお世話は大変で頼めないため)
用事などがないなら、
私も一緒に宿泊して孫達の面倒をみて欲しいと、
娘から頼まれたため、
娘にだけは、

母との面会時に母に酷い扱いを受けたため、
例え小さなことでも母の世話になりたくない

ことを伝え、
そのため、
母の家に宿泊させて欲しいと母に言うことも、
嫌なのだと伝えました。

シングルマザーの私に育てられ、
小さい頃から、
母に預けられることも多かった娘は、
歳をとって大分丸くなったものの、
母の性格が本来、
キツい人間だということは理解しており、
元々、娘は、
相手に無理強いする性格でも無かったため、

「分かった、じゃあ、出来るだけいっぱい、
子供達と一緒に遊んであげてね」

と、私の気持ちを汲んで、
私が母の家に宿泊することを諦めてくれました。

ただ、4歳になる孫は、
そうはいきませんでした。

娘達が帰省してくる日、
本来は昼過ぎに着く予定だった新幹線に、
間に合わなかったと、
娘から連絡が入り、
結局、娘達を迎えに、
新幹線の駅まで行ったのが、
夕方だったため、
私が母の家に宿泊せずに自分のアパートに帰ったら、
4歳になる孫と遊べる時間は、
ほんの2時間程度でした。

下の2歳の孫は、
滅多に会わない私に懐いておらず、
そのため、
私が母の家に宿泊せず、
自分のアパートに帰ることは、
むしろ知らない大人が自分の周りからいなくなると、
歓迎している雰囲気さえあったものの、
4歳になる孫は、
私にとても懐いてくれており、
私と遊ぶのを、
とても楽しみにしてくれていたようでした。

だから、私が頃合いをみて、
自分のアパートに帰ろうとする素振りを見せる度に、

「ばぁば、まだ帰らないで」

と、
寂しそうに私を引き留めてくれて、
そして、
孫からそんな風に言われてしまうと、
誰かから必要とされることが、
嬉しくてたまらない愛着障害者の性を持つ私が、
帰れるはずがありませんでした。

「じゃあ、ご飯を食べるまで一緒にいるね」

「じゃあ、お風呂から上がるまで一緒にいるね」

などと帰る時間をずらしていったら、
すっかり孫達が寝る時間になってしまいました。

娘が孫達を寝かそうと、
泊まる部屋に孫達を促し始めたので、

「じゃあ、ばぁばも家に帰ろうかな」

と孫に言うと、
孫はまた、悲しそうに私にこう言いました。

「ばぁばも一緒に泊まろう」

これにはさすがに、
今までのお願いのように、
頷くことが出来なくて困っていると、
娘が、

「ほら、ばぁばは家に帰らなきゃならないって、
言ってるでしょ!!」

と助け船を出してくれました。

けれど、却ってそのことが、
私に孫に対して申し訳ない気持ちを、
抱かせてしまいました。

1年に数回しか会えない孫が、
居て欲しいと言ってるのに、
自分の母に対する蟠りで、
孫を悲しませてしまっていいの?

そう考えると、
私は自分が、
非常に小さい人間に感じられました。

そして、自分が子供の頃、
休日に遊びに連れて行くと約束していて、
前々から楽しみにしていたのに、
その日の気分ですぐに約束を反故にしてしまう父に、
何回も裏切られ、
いつしか父に期待しなくなった自分の子供時代を、
思い出しました。

もしかしたら、この子も、
私が一緒に泊まると思って、
楽しみにしていたのかもしれない

そんな風に考えだしてしまうと、
私はもう、
孫に対して、
自分のアパートに帰るとは、
言えませんでした。

「じゃあ、ばぁばも泊まろうかな」

私がそう言うと、
孫は嬉しそうに笑い、
娘は心配そうに、

「お母さん、いいの?大丈夫?」

と、そっと私に言いにきてくれました。

そんな心遣いが嬉しくて、

「うん、ゆうちゃん(4歳の孫)が、
こんなに言ってくれるなら帰れないわ」

と私が笑って答えると、
娘も私が泊まってくれるなら嬉しい、
と言ってくれました。

私が居間のコタツで寛いでいた母に、

「お母さん、やっぱり私も泊まっていいかな?」

と訊ねると、

母は私の心の中の葛藤など、
何も気付かないように、

「いいわよ」

と答えてきました。

その言葉に、
私は押入れから予備の布団を引っ張り出して、
自分の寝床の用意し、
孫達が眠った数時間後に、
自分も母の家で眠りにつきました。

結局、
私の母に対する心の中の蟠りなど、
全く反映することはなく、
表面上は、
娘達の帰省に併せて私も母の家に泊まるという、
例年の年末と同じ光景が、
母の家で展開されることとなったのでした。

世界から孤立していた私の話15〜伯父さんの葬儀に続きます。