回想録

世界から孤立していた私の話21〜部下からパワハラ相談を受けて起こした私の行動

前回からの続きになります)

入社2年目の新人Sの言動が、
敵の多かった過去の自分に似ていると感じた私は、
Sの上司である私に時々入ってくるSへの苦情が、
彼女へのヘイトにならないよう、
Sが周囲への配慮に欠けた言動を行なった時や、
仕事を教えてくれた先輩や係長に、
言われた通りに業務を行わなかった時等に、

なぜそのような言動がダメなのか、
なぜその業務を、
教えられた通りに行う必要があるのか、
理由まで説明する

という指導を行なっていました。

本来ならば、
Sの指導を行うのは私ではなく、
Sの直属の上司である、
私の後任の係長の役目でしたが、
Sは昨年1年間、
よそのチームで仕事をこなしてから、
私のチームにきたことで、
自分の能力に自信を持っている様子が窺え、
係長が業務上の誤りを指導しても、
素直に「はい」と言うことはなく、
色んな自分なりの理論を並べ立てて、
言うことを聞かないため、
係長は早々に、
彼女に仕事を教えることを放棄してしまい、
Sが作成した誤った書類を係長は敢えてスルーし、
Sから2つ上の、
上司である私のところまで回すことで、
私にSを指導させるという状況が、
散見されたからでした。

最初は誤った書類を回してきた係長に対して、
指導をしていたのですが、

「Sに言ってはいるんですけどねぇ…」

と言って、
一向に自分でSの指導を行おうとしなかったため、
そんな係長の様子に苛立ったことと、
その言動の面倒臭さから、
あまり仕事を教えてもらえなくなっていたSが、
仕事が出来ないままでいたら、
今後、会社で生きていく上で、
困った立場になるかもしれないと危惧した私は、
Sが言うことを聞いてくれるような指導を、
係長に任せずに、
自分で行なっていくことにしたのでした。

自分の業務をなぜそのように行うのか、
理解しないと動けないASDの私にとっては、
入社2年目のSが考えた理論など、
簡単に論破出来る内容であり、
Sが納得するように、
教えた通りに業務を行う必要がある理由を、
説明することなど、
造作も無かったため、
係長のようにSへの指導を苦痛だと感じることも、
全くありませんでした。

でもSの、
プライドの高さと心の弱さを感じていた私は、
Sへ指導した後の、
彼女へのアフターケアにも気を配っており、
自己肯定感を上げてもらうため、
少しでもSの良い点を見つけた時には、
彼女を褒めたり、
機会があれば感謝の言葉を伝えたり、
Sに対して指導を行なった後には、
自分から周囲に話しかけることをしない彼女に対し、
自分から雑談を持ちかけて、
先ほどの自分の指導を気に病んでいる様子はないか、
確認したりもし、
また、Sからゴールデンウィーク明けに、
具合が悪くて出勤出来ないと連絡がきた時には、
親元を離れて一人で暮らしており、
体を動かすことが出来なくて、
病院にも行けないというSを心配して、
仕事を抜け出して、
自分の車で彼女のアパートに向かい、
病院に付き添って送迎することまで、
行なっていました。

私は過去の自分に似たSを、
放っておくことが出来ず、
過去の私のように、
会社で虐めを受けることないよう、
会社で生きる術を早く、
身につけて欲しかったのです。

だから、Sが女性用更衣室で休んでいる時に、
たまたま後から入ってきた私に泣きながら、

「課長のこの言動はパワハラではないんでしょうか?」

と課長からされた言動を訴えてきた時には、
Sの手が震えていて、
そのまま放置していたらいけないと感じたため、
Sの意向を確認してから、
Sが会社のパワハラ相談員に相談する場を設け、
Sに請われて、
その相談に付き添うことも行いました。

過去に会社で虐めにあっており、
私自身もその課長から、
パワハラに該当するような過度な叱責や、
不機嫌に当たられるといった、
言動を取られていた私は、
この時、
Sのことを仲間のように思っていました。

だから、
Sのパワハラ被害の訴えに関わったら、
課長の私への風当たりが、
また強くなって、
さらに自分が働きにくくなるのではないか、
といった、
打算的な思考も働きましたが、
虐め被害者が、
自分が虐められている人間だと認めることが、
自分の自尊心を貶めるからと、
なかなか認められないように、
過去に自分だけが職場でパワハラを受けていた時、

こいつは虐めてもいいと思われる
価値の低い自分

であることが、
自分の心を大きく傷つけた経験から、
本当はまだ、
私自身は、
課長の言動に耐えることは出来るし、
会社のパワハラ相談員に相談することで、
事を大きくして、
課長の私への心象をさらに悪くし、
私への課長の態度が悪化するといった、
事態を招くことはしたくなかったけれど、
ここで私も、
課長からパワハラを受けていると、
一緒にパワハラ相談員に訴えたら、
Sの気持ちが軽くなるのではないかと思い、
Sに付き添う形で、
自分が課長から受けたパワハラの内容を、
相談員に訴えたのでした。

結局、その時の、
パワハラ相談員(2名いました)との話し合いでは、
課長とSが2人にならないように、
私が気を付けることとなり、
課長とSが話さなければいけないことがある場合は、
私が間に入って取り次ぐことで、
様子をみよう、ということになりました。

なぜそうなったかというと、
実際にSの話を聞いてみたところ、
課長がSにとった言動のうち、
パワハラに該当する具体的なものは、
私がSと女性用更衣室で一緒になった時に聞いた、

  • 仕事中に座っていた自分に対し、課長が歩み寄ってきて、自分宛の封書で頭をポンっとはたいて封書を渡した。
  • 課長の机の前で先輩と談笑していたら、課長が「腹立つな」と呟いた。(独り言レベルの声量)

という2つだけで、
後は一介の新人平社員であるSが、
課長と直接会話することは殆ど無いものの、
たまに課長と会話をすることになった時に、
課長の自分に対する口調がキツい、
といったものだっため、
Sを守るために緊急にそれほど大きな対策が必要とは、
思われなかったからでした。

そのためSが、

「課長の人間性が嫌だから、課長に対し本社から注意して欲しい」

と要望を言い出した時も、
パワハラ相談員はそれは難しい素振りを示し、

「注意するにしても、まず支社長からになります」

とSに告げたのでした。

私はSに対して、人から虐めのターゲットにされ易い人間として仲間意識を持っていましたが、"人間性が嫌だから"と、しかも"本社から"課長に注意をしてほしいと希望するSの中に、【自分の正義を主張し、相手に過度な処罰を望む感情】という、私が嫌悪する感情を認めて、この点は受け入れられないと思いました。

この時の、
Sとパワハラ相談員との面談の結果は、
正直、
私にとっては、かなりキツいものでした。

なぜなら、
平社員のSと違って、
課長補佐の私は、
課長と話さなければいけないことが、
職務上、たくさんあり、
そのため、

課長からパワハラ被害を受けていたのは、
Sより私の方が多かったからです。

​Sは、
元々課長が転勤してきた時から苦手だったといい、
その苦手だと感じた理由が、

課長補佐(私のこと)への言動がキツく、怖かった

からだとパワハラ相談員に訴えましたが、
私もSが訴えた、
課長の私に対する言動にはストレスを感じており、
平気なフリを装ってはいたものの、
決して平気な訳ではなかったため、
そんな私がSを庇うということは、
本来は、
必要最低限の関わりしか持ちたく無かった課長に対し、

自分から積極的に課長に関わる=課長からの自分への当たりが増える

ことを意味していました。

これが、私にとってキツくない訳がありません。

何しろ、Sが怖いと言っていた課長の言動は、

元々、私に向けられていたものなのです。

傍で聞いていた女の子が怖いと感じるほどの言動を、
自分から増やしに行く行動を取りたいと思うほど、
私は好戦的な人間ではないし、
それ程の心の強さも持ってはいませんでした。

でも、私は、
パワハラ相談員との面談で提案された、
課長とSの間に私が入るという、
一切、私に配慮されていない申し出を受け入れました。

パワハラ相談員も、
私よりもSの方が症状が重くて心配だと口にしていたし、

私はまだ、耐えられるから。

課長からのパワハラの影響は、Sは手が震えるといった身体に症状に出ていましたが、私は不眠や課長からの当たりがキツい場面を思い出す反芻思考といった、精神に症状が出ていたため、表面的には何の症状も認められていませんでした。

以前、
私が職場でパワハラを受けた時には、
陰で同情した声を掛けてくれる人はいても、
誰も具体的な解決策を提示してはくれなかったことが、
出口の無い暗闇の中にいるようで、
本当に辛かったから。

自分が無理をすることで、
そんな絶望から他の人を救い出せることが出来るなら、
もう少し頑張ろうと、
課長からのキツい当たりが増える未来を想像し、
本当は怯んでいた自分の心を奮い立たせたのでした。

世界から孤立していた私の話22〜出勤出来なくなった部下に続きます。