社会との関わり方

定型発達者の納得出来ない主張

疑問を持つ女性

私は自分が、
自閉スペクトラム症に該当する人間だ、
と分かってから、
皆んなで何かする時に、
人と意見が違った場合、
自分の意見を引っ込めることが、
多くなりました。

なぜなら、
自閉スペクトラム症である、
自分の考えの方が少数派だから、
数の多い、
定型発達者のやり方に合わせた方が、
物事がスムーズに運ぶ、
と思うからです。

けれど昨日、
私が歳上部下に指示した作業について、
歳上部下が私に意見してきた時に、
歳上部下が、
どんなに自分の正しさを主張してきても、
私は全く、
歳上部下に意見を合わせる気持ちに、
なりませんでした。

私には、その歳上部下の発言が、
非常に稚拙で自分勝手な意見にしか、
聞こえてこなかったからです。

その歳上部下は、もうすぐ定年になる、
60歳に近い年齢の方で、
仕事で重い荷物を運んだりする際には、
自分は歳だから、
体が痛くて持てないなどと言って、
人に重い荷物を運んでもらっておきながら、
お礼も言わないような人間です。

彼女の中では、
高齢の自分が重い荷物を運ぶ時に、
人に手伝ってもらうのは当たり前だから、
重い荷物を持ってくれた相手に対して、
お礼を言うなどとは、
思いもよらないのかもしれません。

だから、
自分の重い荷物を持ってくれている、
人の隣で、

「腰が痛い、体が痛い」

と言って、
相手に感謝することなく、
自分の体が痛いことをアピールして、
相手に更に歳上の自分への気遣いを、
要求出来てしまうのでしょう。

そんな彼女の言動に対して、
私は面倒くさい人だなぁと思いながらも、
特に何も言う気はなく、

「そうですねぇ、大変ですねぇ」

と、サラッと彼女の言動を、
受け流すようにしていました。

これは、
自閉スペクトラム症に該当する私が、
20年以上の社会人経験で学んだ、
人間関係を円滑にする方法の1つでした。

けれど、昨日の彼女の発言は、
私には全く承服できないものばかりで、
私はサラッと受け流すことが、
出来ませんでした。

なぜなら。

私が歳上部下に指示した作業というのが、
うちの会社のお得意様が、
うちで購入した重い商品を、
車まで運んであげる、
という内容だったからです。
(歳上部下でも運べるくらいの重さです)

私が手の空いていた歳上部下に、
その作業をお願いをしたら、
歳上部下は、
もの凄い剣幕で怒り出しました。

「自分の荷物なのだから、
自分で持って帰ればいいでしょう、

そんなサービス、
今までしたことないです!!」

って。

私は、彼女が、
そんなに怒ると思っていなかったため、
少し気圧されながらも、
自分の気持ちを伝えました。

「お得意様は、もう80歳に近いお歳で、
うちの社で購入して下さった、
重い商品を運ぶのも困難だから、
こちら(私達が所属する部署)に、
自分の車まで運んで欲しいと、
依頼されてきたのです。

運んであげてもらえませんか?」

私がそう伝えると、
歳上部下はさらに反論してきました。

「自分で運べないなら、
商品を購入しなければいいんですよ!
そんなに甘やかしたら、
キリがありません!!」

この言葉を聞いて私は、
心底呆れかえってしまいました。

60歳近い自分が重い荷物を運ぶ時には、
人に手伝ってもらった上に、
さらに自分への気遣いを求めるくせに、
80歳近いお得意様の、
自分の重い荷物を運んで欲しい、
というお願いに対しては、
甘やかしていると怒り出すなんて、
とても自分勝手だと思ったからです。

けれど、
歳上部下を説得するのも面倒なので、
私が歳上部下に、

「分かりました、
お得意様の手伝いは私がします。
無理言ってすみませんでした」

と言うと、
それはそれで、
また彼女は怒り出したのです。

「私はお得意様の手伝いがしたくなくて、
言ってるんじゃない。
そうやって、
お得意様の意見ばかり聞いていたら、
どんどん仕事が増えるから良くない、
と言っているんです。
なのに、係長(私のこと)が何かにつけて、
"私がやる"って言うのも気に触ります」

歳上部下は怒りで目を潤ませながら、
私に自分の意見の正当性を、
主張してきたのですが、
私は全く心が動くこともなく、
彼女の意見に同意も出来ませんでした。

なぜなら私には彼女の言葉が、

係長が指示した作業をするのは嫌だけど、自分が嫌がったからって、係長がその作業をするのもイヤ。
だって、私が思いやりが無いみたいに、周囲の人に思われるから

と言っているようにしか、
聞こえなかったからです。

私はお得意様が待っていたため、
それ以上歳上部下と議論する余裕もなく、
彼女のそばを離れましたが、

「歳上部下の先ほどの発言は、
定型発達者なら、
違う意味に聞き取れるのだろうか?」

と、とても考えてしまいました。

なので、
歳上部下のことを良く知っている、
私が雑談出来る、
数少ない同僚のところへ、
彼女とのやり取りを話しに行くと、

「歳上部下さん、
相変わらず自分のことばっかりですね〜」

などと、
全く驚いた風もなく言われました。

歳上部下と7年の付き合いのある彼女は、
歳上部下が自分のお願いはするけれど、
人からお願いされると、
機嫌が悪くなる人間であることを、
良く知っていました。

「さすがにお得意様に対して、
その態度はないですよね」

との同僚の言葉に、

「あ、やっぱり、定型発達者でも、
歳上部下の言動がおかしいと思うんだ」

と思い、
私は何だか切なくなってしまいました。

自分のおかしな発言が、
正しいと思っている定型発達者は、
自分に非があると思っていないため、
とても堂々と、
おかしな正論を私にぶつけてきます。

対して私は、
自分の思考パターンが、
マイノリティであると知っているため、
自分と他人の意見が違っていた場合、
相手がおかしいと思っていても、
相手が何でそんなことを言うのか、
本当に相手がおかしいのか、
一度相手の意見を精査してしまうのです。

この社会という世界は、
主張したもの勝ちのようなところがあって、
自分と違う意見と、
キチンと向き合おうとする姿勢は、
時として、
相手に付け入る隙を与えてしまいます。

こんな時、
優しさを奪う社会だなぁ、
と感じて、
やっぱり自分は損な役回りだなぁ、
と思います。

でも。

私がお得意様の荷物を運んで差し上げた時、
お得意様は笑顔で、

「ありがとう」

と言ってくださいました。

その一言だけで、
私は報われた気持ちになれました。

私がこのように、
自閉スペクトラム症でありながら、
他人への気遣いが出来るのは、
愛着障害に起因する、
人に嫌われるのが怖い気持ちから、
なのかもしれません。

それならば、
もし私に愛着障害がなかったならば、
私は自閉スペクトラム症による、
空気の読めなさから、
今以上に人に嫌われる人間に、
なっていたかもしれません。

発達障害も、愛着障害も、
抱えて生きるのは、
とっても難儀なものだけど。

やっぱり自分にとって、
悪いだけのものではないように、
思えるのでした。