社会との関わり方

私が発達障害だと職場で思われない理由

私は検査で、
発達障害グレーゾーンだと分った人間ですが、
会社で私の事を、
発達障害だと思っている人はいません。

そして私の部下のW君は、
検査を受けてはいないものの、
私を含む会社の上司から、
発達障害だと思われています。

発達障害だと思われる彼と、
私の違いは何なのか?

私は自分の上司から、
彼の事を発達障害だと疑っている、
と打ち明けられて以降、
発達障害と思われる人と、
思われない人の違いを、
W君と自分を比較対照する事によって、
考えるようになりました。

そして、期せずして、
そのような視点でW君の言動を見ていると、
私は自分の発達障害を改善する、
色んなヒントが、
見えてくるようになったのです。

最近感じた一番大きな違いは、

「今までやった事の無い仕事を与えられた時の態度」

でした。

定型発達者であれ、発達障害者であれ、
初めての仕事をやる時は、
不安が付き纏うものだと思いますが、
ただ発達障害者の方が、
その変化を嫌う性質の為、
より恐れの程度が大きいように思います。

発達障害グレーゾーンである私も、
臨機応変な対応がとれず、
咄嗟の状況把握も苦手な為、
初めての仕事を任される時にはかなり不安で、
緊張してしまいます。

けれど私は自分が、
流動性知能(初めてのことに柔軟に対応できる能力)と、
論理・推理(想像力)の能力は低いけれど、
記憶(ワーキングメモリー)と、
結晶性知能(今までの経験を生活に応用する力)が高いという、
そんな自分の特性を知っている為、
初めての仕事をやらなければいけない時には、
その仕事に関する知識と情報を、
事前に仕入れて記憶し、
未知の仕事を既知に変える事で、
何とかその仕事に対応する、
という行動を取っています。

自分が持っている能力で出来る方法を探すのです。

けれど、W君は違います。

今までやった事の無い仕事を与えられた時に、
まず彼は、

「腕を組んで目を瞑り言われた仕事を吟味する」

という行動を取ります。

その姿は傍からみたら、
まるで老獪な政治家のような風情です。
そして、彼は重々しく口を開くのです。

「それはやった事がないですもんね~」

これは彼の拒否の言葉であり、
その後はこちらから説得や叱咤激励といった、
彼のやる気を起こさせるような行動を、
取らない限り、
彼が言われた仕事をする事はありません。

私は最初に彼のこの態度を見た時に、
会社に大した貢献もしていない、
単なる平社員という身でありながら、

「上司から言われた仕事を選り好みする」

という態度に、まず衝撃を受けました。

そのような我が儘な態度がとれるのは、
会社では社長や部長といった役付きか、
それだけの実績を上げている、
キレる社員だけだと、
私は思っていたからです。

後輩社員から、
仕事が出来ないと馬鹿にされるW君が、
自分のやれる仕事しかしようとしない態度と、
周囲のそれを容認してしまう空気に、
私はとても衝撃を受けました。

そして、思ったのです。

彼と私の大きな違いは、
やった事のない仕事に挑戦する勇気

だと。

私も入社したての頃は、
彼のような言葉を使っていました。

「それはやった事がありません、
自信がありません」

でもその言葉を言った時に、
私は当時の先輩や上司から、

「そんな事はやらない理由にならない」

「やれないじゃない、やるんだよ」

と酷く叱責されたのです。

シングルマザーから、
中途採用で今の会社に入社した私は、
上司や先輩から言われた言葉が、
どんなに辛く苦しくても、
歯を食いしばって頑張って、
やっと入れたこの会社に、
しがみつくしかありませんでした。

経済的に困窮し、
アパートの家賃も払えなくなっていた私は、
この会社に入れなければ、
行政機関が運営する母子寮という、
シングルマザー保護施設に入寮するところまで、
話が進んでいたからです。

まだ0歳児の子どもを抱えて、
集団生活の苦手な、
発達障害グレーゾーンの私が、
初めて会う人達と共同生活をおくることは、
想像するだけで、とても苦しい事でした。

「この会社をクビになったら、
私は母子寮に入るしかないんだ」

そう思えば、
自分に割り振られるどんな仕事も、
感謝して引き受ける事が、
出来るようになりました。

「私を採用してくれたこの会社に御恩を返そう」

そんな気持ちで働いていた私は、
初めての仕事を任されて不安でも、
毎日残業しても、
失敗しても、
断ることなく、
あらゆる事に挑戦していきました。

そうやって、経験値を積んだ私は、
会社で人間関係を築くのは、
相変わらず上手くなくても、
仕事上で困る事は無くなっていったのです。


シングルマザーで、
総合職に中途採用という経歴から、
入社当時は、
先輩や上司から色眼鏡で見られていた私は、
新卒で入った同期入社の他の人達より、
かなり厳しい態度で接せられて、
当時はそれがとても辛かったのですが、
今となっては、
経験値を上げてくれて良かったと思います。

発達障害グレーゾーンの私が、
発達障害と思われているW君の、
指導を任されるまでになったのですから。

だから、今、
会社で頑張っている、
発達障害グレーゾーンの皆さんには、
自分の適性をちゃんと把握したうえで、
与えられたチャンスには、
怖くてもぶつかっていって欲しい、
と思います。

その経験はきっと、
自分を社会で生き易くする事に、
繋がると思うのです。