社会との関わり方

ASDが人と仲良くなる方法

殻に閉じこもった人との会話

人に好感を持ってもらうために必要なこと

先日、私は少し体調が悪かったので。

仕事を定時で終えて帰ろう、
と思っていたのですが。

午前中に私にこっそりと、

「お時間のある時に話を聞いてください」

と言ってきた部下Bが、
独りで残業する様子が目に止まったので、

「今日は他の皆んなは、
定時で帰るみたいだから、
あなたさえ良ければ、
今から話を聞きましょうか?」

と業務時間終了後に声をかけました。

すると、部下Bは、

「お願いします!!」

と二つ返事で返してきたため、
私は部下Bと2人きりで事務所に残り、
2時間ほど、
部下Bの話を聞いていました。

部下Bは自分の仕事の進め方が分からなくて、
ずっと悩んでいたけれど、
彼女に仕事を指導する立場にある、
主任という業務についている部下Aは、
部下に仕事を任せきりにする人間で、
仕事に悩んでいる部下Bに対して、
何のフォローもしてくれないと、
激しい口調で、
部下Bは私に訴えてきました。

主任である部下Aは、係長である私の部下にあたり、
私>部下A>部下Bの序列になります。

私は部下Bの、
部下Aに対する溜まっていた不満を、
全て聴き終わると、
部下Bが反発しない程度に、
部下Aのことをフォローし、
部下Bが悩んでいた仕事に対する、
アドバイスを行いました。

幸い私はASD(自閉スペクトラム症)の、
拘りが強く真面目な特性から、
自分の部署が扱っている仕事について、
一般的な社員が知らない内容まで、
突き詰めて学んで、
知っていることが多かったため、
彼女が悩んでいる仕事に対しても、
アドバイスをしてあげることが出来ました。

仕事の進め方が分かった部下Bは、
ずっと悩んでいた問題の答えが分かって、
ホッとした顔をしてくれました。

体調的には少し辛かったけれど、
私は彼女の話を2時間聴いて良かったと、
部下Bの安心した様子を見ていて思いました。

こんなことを書くと、
何だか私が、
優しい人間のように思われそうですが。

この行動は決して、
私の優しさから出た行動ではありません。

私はやはりASDの特性から、
自分の興味あること以外について、
あまり関心を払わずに生きてきました。

そして、そんな自分の態度を、
省みることはありませんでした。

でも、生きづらさを感じて、
心理学や心理療法を学ぶようになった時、
私は人間の、
ある心理を知ったのです。

それは…

ザイオンス効果(単純接触効果)

というものでした。

このような言葉で言ってしまうと、
何だか物々しく感じてしまうのですが、
要は、

人は会う回数が多いほど相手に好感を抱きやすい

ということです。

言われてみれば、
何だか当たり前のことなのですが、
ASDで人に対する関心が薄く、
その生育歴から愛着障害も併せ持ち、
人と関わることに、
多大なストレスを感じる私は、
なるべく人と関わらないように、
生きてきました。

そして、そんな行動を取っているクセに、
人と仲良くなりたいなどと考えて、
独りの自分に寂しさを感じていたのです。

改めて文字にすると、
自分でもとても矛盾していると感じます。

でも私は、
ザイオンス効果を知るまで、
自分の中のこの矛盾に、
気付くことが出来ませんでした。

そして、このザイオンス効果を知ってから、
私は自分に出来るだけの範囲で、
人との接触を図っていくことにしたのです。

人に関心が薄くて人が怖く感じても、
それでも、やっぱり、
私は人と、仲良くなりたいと思うから。

そんな思考により行った、

「部下Bの話を聴くことに2時間を費やす」

という行為。

私が決して部下Bのことを思って、
とった行動ではないことが、
伝わったのではないか、と思います。

きっと定型発達者の人達は、
こんな思考など辿らなくても、
自然に相手の気持ちを慮って、
優しくしてあげることが出来るのでしょう。

でも、それは。

ASDの私には、
望んでも手に入らない能力だから。

私は自分に出来る方法で、
人と仲良くなっていくしかありません。

そして部下Bの話を聞いたその日、
部下Bのために使った2時間のおかげで、
私は部下Bから、
感謝の言葉と信頼を、
受け取ることが出来ました。

受け取る結果が一緒なら、
自然に相手を思いやれなくても、
きっといい。

大切なのは、その行動。

ASDでコミュニケーションが苦手でも、
人との関わり方を学んで、
人と関わる経験を増やしていくことで、
きっと人と仲良くなっていけるのだと、
私はそう思っています。

部下Aと部下Bの仲が悪い理由

そんな私の職場の部下Aと部下Bは、
とても仲が悪いです。

部下Aは部下Bの、
神経を逆撫でする言動が多く、
そのために部下Bは、
とてもストレスを抱えています。

でも側から見ていると、
部下Aの部下Bに対する言動に、
特に悪気はありません。

人の言動をネガティブに捉える部下Bが、
部下Aの気遣いの無い言動に、
過剰に反応しているように見えます。

なので部下Aは、
なぜ自分が部下Bに嫌われているのか、
理解することが出来ません。

部下Aにはそのつもりは無いのに、
全てを悪意で受け止めているのは、
部下Bだからです。

2人の上司である私は、
部下Aの部下Bに対する苦情も、
部下Bの部下Aに対する苦情も、
両方とも聞くことになります。

2人とも私に対して、
相手への苦情が言いたくなるタイミングは、
同じらしく、
先日、部下Bの苦情を聞いた私は、
次の日には、
部下Aの苦情を聞くことになりました。

人に共感する能力が低いとか、
他人の意図を読み取れない、
などと言われる、
ASD(自閉スペクトラム症)ですが、
ASDだからこそ、
2人が仲が悪い理由が、
私はとてもよく分かります。

それは…

相手を受け入れようとする気持ちがお互いに無い

からです。

50歳を過ぎている、
定型発達者の部下Aと部下Bの2人には、
それぞれ長い時間を共に過ごしてきた、
とても仲の良い友人達が存在します。

その友人達の中では、
長く付き合っているからこその、
共通認識というものが出来上がっており、
2人は友人達の中では、
意思の疎通に何の努力も必要ありません。

それが多分、
仇になっているのだと思います。

私に部下Bの苦情を言ってきた部下Aは、

「私の周りにはあんな人いなかった。理解出来ない」

と怒りを露わにし、
私に部下Aの苦情を言ってきた部下Bは、

「私の友人達はあんな思い遣りの無い言葉なんか言わない」

と悔し涙を流しました。

そんな2人を見ていて、

相手を受け入れないって怖いなぁ。

と、私は感じたのです。

私はASDの特性のため、
普通にしていると、
集団からはみ出てしまう人間でした。

思考パターンも定型発達者とは違うため、
自分が何故そのように考えるのか、
何故そのような言動を取るのか、
周囲の人間に理解してもらい、
受け入れてもらうためには、

とても多くの言葉と時間と根気

を、
必要としました。

そんな経験から私は、

自分の中の当たり前は他の人の当たり前ではない

ということを理解したのです。

そして自分の中の当たり前を、
相手に押し付ける行為は、
とても傲慢な態度だと思うようになりました。

だから私は社会に、

「ASDの自分」

という、
マイノリティを受け入れてもらうために、
自分自身も、
相手と自分の違いを、
理解出来なくても受け入れようと、
少なくても否定するのは辞めようと、
ずっと努力してきたのです。

それは自分が、

相手にそのような態度で受け入れられたかったから

でした。

私の相手を理解しようとする気持ちは、
自分が、
理解されなかった経験があったからこそ、
生まれてきたものでした。

けれど定型発達者の部下Aと部下Bは、
そんな努力などせず、

自分と違うものは受け入れられない

という態度で生きてきても、
気の合う人達が周囲に一定数いたために、
ちゃんと社会に溶け込んで、
生きてくることが出来たのでした。

気の合う人達とばかり交わってきた2人が、
50歳を過ぎて、
自分が今まで嫌っていたタイプの人間と、
コミュニケーションを取っていくのは、
きっと大変だと思います。

でも、それが出来なければ、
2人は仕事上で連携する事が出来ず、
業務上のミスが発生してしまいます。

そのような状況を防ぐために、
2人の間に立って仲裁している私ですが、
ASDだけでなく、
HSPの資質も持っている私は、
ずっと諍いの中にいると、
気分が悪くなって疲れ果ててしまいます。

職場で2人の仲裁を行った日は、
職場からの気分の悪さを引きずり、
家に帰ってきてからずっと、
ベッドの上で動けなくなったりしています。

でも、私は思うのです。

マイノリティな自分で良かったなぁ。

って。

想像力や共感力が低かったとしても、
自分が経験した感情なら理解出来るし、
人に受け入れてもらえない心の痛みも、
自分のこととして感じることが出来るから。

そんな経験が無かったら、
ASDの私が、
人の仲裁なんて出来てはいないでしょう。

定型発達者の仲裁をするASD

社会経験を積めばそんな状況も、
起こってくるようになるのです。

必要なバウンダリー

そのような状況もあって私はここ最近、
部下Aと部下Bの仲裁に、
非常に時間と労力を取られています。

特に部下Aの、
更に部下にあたる部下Bは、
部下Aに対する不満を、
自分の立場を考慮して溜め込んでしまい、
その鬱憤を逐一、
私に話に来るために、
私の業務は遅々として進みません。

私が部下Bと部下Aが、
トラブルを起こしていた仕事を、
何回か間に立って処理してあげたことに、
すっかり味をしめた部下Bは、
最近は何かあるごとに、
本来ならば部下Aと協力して、
片付けなければならない業務を、
全て私へ持ってくるようになっていました。

その私に持ってくる業務にはもれなく、
部下Aへの不平不満がついてくるため、
HSP気質を持つ私は昨日から、
部下Bと話すたびに、
どんどんと気分が悪く、
吐き気が込み上げてくるように、
なっていました。

このままでは自分が潰れる。

そう感じた私は、
自分を守るために、
部下Bに対する態度を、
少し改めることにしました。

そのため今日もまた、
本来ならば部下Aと一緒に、
やらなければならない業務の問題を、
私に持ってきた部下Bに対して、

「そのことは部下Aに言ったんですか?」

と聞きました。

「いいえ、言っていません」

そう部下Bが答えたために、
私は次のように言いました。

「ではまず、部下Aに話をして下さい。
そして話がまとまらなかったら、私が間に入ります」

私は部下Aの言動に対して、
泣くほど悔しがっていた、
部下Bのメンタルを考慮して、
なるべく部下Bの意に添うように、
動いていましたが、
私の心身のバランスを崩すような依存と、
吐き気をもよおす程の、
人に対する悪意を振りまく部下Bに、
これ以上付き合うことは、
出来ませんでした。

部下Bはそんな私の態度に、

「分かりました」

と一旦引き下がり、
部下Aに話をしに行きました。

部下Aに対しては、
先日部下Aの部下Bに対する苦情を時に、
部下Bと関わる時の心得を伝えていて、
部下Bにも、
あらかじめ部下Aと揉めていた業務の、
問題点の解決策を説明していたため、
遠くから見ていたところ、
私が間に立たなくても、
何とか業務の処理が出来たようでした。

部下Bは50歳を過ぎていますが、
未だに誰かと一緒に、
トイレに行くようなところがあり、
人に気を遣ってもらわないと、
すぐに機嫌が悪くなるような人間のため、
付き合い方にコツが必要です。

7年前に部下Bと一緒に働いた時には、
まだ自分が、
ASD(自閉スペクトラム症)だとは、
気付いておらず、
人とのコミュニケーションの方法を、
学んでいなかったために、
私は部下Bのご機嫌を損ね、
部下Bから無視をされて過ごしていました。

昨年4月の転勤で、
もう一度部下Bと一緒に働くとわかった時、
私は自分で学んだ、
コミュニケーションスキルを駆使し、
現在まで、
部下Bと円滑な人間関係を築くことに、
成功していたのですが、
そのことで部下Bが、
私の心身を害する程の依存と、
人に対する悪意をぶつけてくることは、
想像できていませんでした。

やはり7年前の本来の私を無視し、
気遣いする私のみを必要とする部下Bとは、
職務を遂行する上で、
ある程度の友好関係を築くことは必要でも、
必要以上に親しくなることは、
かえって自分に害になると分かりました。

全ての人と仲良くなることが良いわけではない。

HSP、ASD、愛着障害といった、
人とのバウンダリー(自分と他人との境界線)を、
引くのが苦手な、
性質を3つ併せ持っていますが。

幸せな自分を保つために。

今後は部下Bに対して、
職場の上司としてのフォローはしつつ、
適切なバウンダリーを、
引いていこうと思います。